一から学ぶブッダの教え-生きている人の苦を減らす-

全く何も知らないところからブッダの説いた苦を減らす教えを学んでいくブログです。

肉体の生存欲求と性欲、怒りの発生

 人間だけでなく生物は自分の肉体を生き残らせることに極めて執着すると同時に、確実に迎える死に対応する目的として遺伝子を残すこと、つまり子孫を残すことにも執着します。したがって、生き残る事の次に強い執着は性に関する事になります。あり得ない仮定なのであまり意味はないですが、もし生物が先天的に死なないのならば*1性欲はおそらく存在しないでしょう。あってもこれほど強い衝動ではあり得ません。

 男性がもっとも振り捨て難い執着は美しい女性との性交です。しかし性交できるなら、多少好みの容姿でなくても構わないと言う人は多いと思います。これらの理由は以下です。美人との性交欲求は奇形の子孫を残さない目的に、とにかく性交したい欲求は沢山子孫を残す目的にそれぞれ基づいています。短絡的に見れば男性はなるべく沢山の子供を設ける事が遺伝子の保存に有利なので、欲のほとんどが性行為に向きます。

 女性にも決して弱いとは言えない性交への欲望がありますが、通常は男性の様に性交さえ出来れば良い、沢山の相手と性交したいと言う様な方向ではありません。代わりに強く生じるのが見栄と住居に対しての執着です。女性は生物的に出産可能な子供の数に制限があるので、男性と違い沢山の異性と性交することが必ずしも遺伝子の保存に有利にならないからです。なので性のパートナーに関しては、男性より女性の方が当然選定基準が厳しくなります。つまり女性は子供の数より質を問題にします。この様に女性は少しでも優秀な子を産む方が遺伝子の保存には有利なので、そのために同性内で優位に立ち、優秀な男性と性交して安全な環境で子育てをする要求が生じます。

 以上の理由から女性は同性間の優位確保の欲望が生じ、そこから派生する見栄と、子育ての環境である住居に対する執着が強くなる傾向があります。妊娠と母乳のために食に対する執着も男性より強くなります。結果として着飾ったりする他、とにかく容姿に気を配り、配偶者の職業や地位、子供の学歴などが気になり、それらが良いものなら自慢したくなり、悪いものなら他者に嫉妬します*2。また、食事に関しても欲求は強く、高カロリーな甘いものなどを好みます。

 これらは一般的な傾向を述べたものですが、欲望と言うのは満足の威力でまた強くなる際限のないものなので、各個の状況によって興味の対象が変化していくことはあります。例えばフェティシズムや食事に対する異常な関心、各種の収集癖などもこうした欲望の分化、発現の有り様の一端です。実際、欲望の変化の様相にきりはなく、これらの欲望の種類を細かく分類することにあまり意味はないと見えてきます。要は身勝手な、客観的に見て必要のない異常な欲が強い執着の原因となって、精神病院に通う事になったり、時には自分も含めて人を殺すまでに到ります。これが苦の海を回遊するとか、苦を楽と思って掌握するなどと言われる状態です。

 逆に苦を減らし、最終的には消滅させるためには、この様な心が欲望に支配された状態が害にしかならない事が見えれば良いのです。害を見て欲を減らせれば、この欲はあれだ、これだと分類する必要はありません。

 しかし一般的にはこのような性に関する欲望は、自然な成り行きに従っていればほとんど全ての人にかなり強い衝動として生じます。なので、どのような原因があってそれらの欲望が生じるかを知っておくことに利益はあります。

 両性とも個体の生存や性的な欲望から生じる執着を捨てる事は中々出来ないので、これらの目的を妨害する存在、つまり邪魔者や敵対者への怒りの感情を捨てる事もまた中々出来ません。個体の都合に悪い存在は攻撃して排除する方が、動物の個体としては手っ取り早く利益があるからです。

 また、一部の人は怒ることを正しい事だとすら思っていますので、心が感情に支配された状態が地獄であると知ることが出来ません。この様にして、貪欲、怒り(瞋恚:しんに)、無知(愚痴)は循環して際限なく膨れ上がるので、無常のものに執着する事が原因で生じる苦から逃れる事が出来ません。ブッダのダンマはこういった苦の発生の連鎖を逃れることを教えるものです。

*1:アメーバの様な単細胞生物は分裂時に遺伝子が完全にコピーされるため寿命はなく、条件が良ければ不老不死です。しかし、同じ個体と言うことは皆同じ原因で死ぬので、致命的な環境が生じるとひとつの要因、例えば伝染病などで簡単に全滅する危険性があります。

*2:性欲に関してはこちらこちらもご覧になってみてください